140905_futaba_01ニュースサイト「ナタリー」は、音楽・お笑い・コミックの3ジャンルにわたるエンタメ情報が満載の、月間3000万PVを超える巨大サイトである。特に音楽の分野はニュースやインタビュー記事などを含め国内ナンバーワンの情報量を誇り、音楽ファンにとって貴重な情報源だ。
また、独特の「らしさ」も人気のひとつで、たとえば記事更新のあまりの速さと内容の濃さに読者から「キモい」という指摘を受けたことがあると言うが、そういった「ファン目線」であることもナタリーが愛される理由のひとつである。

そのナタリー創業者である大山卓也氏が、本人いわく「最初にして最後の著書」、『ナタリーってこうなってたのか』を双葉社より発売した。発売早々、カルチャーファンやメディア業界の人々の注目を浴び、一時はAmazonで欠品が続くなど品薄になる事態も発生した。

本書では、もともと雑誌の編集部出身であることを含めた自身の生い立ちから、ナタリー立ち上げの経緯、決して順風満帆ではなかった時代を経て、どうやって国内ナンバーワンのカルチャーメディアに育てたのか、その哲学と美意識が描かれており、今回、それを初めて一冊にまとめて振り返った形だ。

プロローグでは、大山氏自身もなぜナタリーがこれほど大きなメディアに成長したのか、実はよくわかっていないと語る。
ナタリーの前身となったのが「ミュージックマシーン」という大山氏の個人運営サイトであったことは、コアな音楽ファンにはよく知られた事実だ。その頃から、ロックからアイドルまでジャンルを問わない圧倒的な情報量で人気を博した。その情報量と更新頻度は個人サイトのレベルではなく、またニュースに一言寄せられる気の利いたコメントが好きだというファンも多かった。
そこから、現在はジャーナリストとして知られる津田大介氏らと一緒に会社を設立し、ナタリーを立ち上げていった経緯も本書の中では描かれている。

音楽好きの一個人が、「自分が欲しいサイトが世の中になかったから」という理由で、「批評をしない」「全部やる」というコンセプトのもとにスタートしたのがミュージックマシーンであり、ナタリーである。しかし、ただ音楽が好きだからという理由だけでは、誰もが成功することはないだろう。本書では、それを可能にしたナタリーの設計思想も詳しく書かれている。
たとえば、イージーな手法で作られているウェブメディアも多い中、雑誌というオールドメディア出身ならではの教育を受けた人間として、記事の裏取り、画像使用の許諾など、いかに「当たり前のことをちゃんとしていくか」ということを徹底しているのが大きな特徴だ。
また、記者の自己主張は不要だとし、メディアとして「ファンが求める情報」から「誰にも求められていないかもしれない情報」までもフラットに、そして日々大量に発信し続ける「報道」でありたいとも語る。そうした「早さ」や「フラットさ」、そしてアーティストのことを過剰に褒めもしない代わりにゴシップなどは絶対に扱わないという、主眼をメディアや業界の論理ではなく、あくまでアーティストとファンにおいた徹底的な「ファン目線」も様々な人に支持される理由だ。

本書の発売以降、そんなナタリーの哲学と美意識に共感する著名人からも、数多くの感想ツイートが寄せられている。糸井重里(@itoi_shigesato)氏は、「おもしろかった。『ほぼ日』のいろいろと重ねて読んでしまうことも多くて、ああおんなじだとか、ここはちがうんだなとか、読んでて楽しかった(要約)」と、ウェブ媒体を1から立ち上げて成長させた同業者として共感を寄せている。
また評論家の中森昭夫(@a_i_jp)氏も、「大山卓也著『ナタリーってこうなってたのか』(双葉社)読了。猛烈に面白かった! 編集とかメディアに関わろうとする人は必読じゃないかな?(後略)」とツイート。
さらに、本書内でもインタビューのエピソードが語られる「いきものがかり」の水野良樹(@mizunoyoshiki)氏は、「当然のことを実直に淡々とやりとげようとすること。徹底してフラットであろうとすること。最も強い”意志”だし、最も困難な目標。そういうメディアだからナタリーの取材に向き合うときは緊張もしますし信頼もします」と、インタビューされる側の立場としてツイートを寄せている。

なお、巻末には共同創業者である津田大介氏、コミックナタリー編集長として大山氏を支える唐木元氏の両氏による対談「大山卓也ってこうなってたのか」も収録。身近な2人から見た大山氏の姿が浮き彫りにされており、非常に興味深い対談となっている。

奇しくも本書の発売と時を同じくして、ナタリーの運営会社である「ナターシャ」のKDDIグループ入りが発表され、マンションの一室で始めた独立ウェブメディアのサクセスストーリーとしてビジネスメディアを賑わせた。一部では編集方針が心配されたようだが、今後も大山氏がコンテンツ制作と経営に携わり続け、現在のスタンスは変えないとのこと。
大山氏はFacebookで「個人的にはインディーズでがんばってたバンドがメジャーレーベルと契約したみたいな話かなと思ってます。インディーズのままでいいじゃんって意見もあるとは思うんだけど、でもメジャーじゃないとできないこともあるのだ」と、今後の活動の広がりについて意欲を見せている。

この本を企画した双葉社の安東嵩史氏は、「大山さんはふだん自分の志のようなものを前面に出さない人ですが、平熱にも見える情熱によってナタリーという巨大メディアの底流に流れるものが純度を保ったまま続いてきているし、そんなメディアが資本主義の文脈でちゃんと評価されているということ自体が価値のあることだと思います。メディアに関わっている人や『誰かにある価値を伝える』ということに興味のあるすべての人に読んでほしいですね。
また、独立ウェブメディアを立ち上げた若者たちの立志伝的な読み方もできる、多角的な楽しみ方の可能な内容になったと思っています」と語る。

ナタリーの中の人ってどんな人?と気になる人はもちろんのこと、様々な人が何かしらの学びや共感を得ることができる1冊だ。『ナタリーってこうなってたのか』は1000円(税別)で書店やウェブショップなどにて発売中。

ナタリーってこうなってたのか
http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-30700-9.html