51u5o9cjzol-_sx348_bo1204203200_テレビドラマでも良く耳にする、検視と検死。この平仮名では同じ「けんし」と書く言葉の違いを御存知だろうか。
いずれも人の死に向き合い、もの言わぬ遺体に代わり、人生の最後の時間と真実を導き出す行為であるが、警察が行うのが検視であり、医師が行うのが検死なのである。この検視と検死の世界を警察医の視点で描いたのが、文芸社から発売されたばかりの『一期一会 伊達の警察医日記』だ。

著者である板野聡(いたのさとし)氏は、大阪医大大学卒業後、地に足のついた医療を目指し、名張市寺田病院院長、日本外科学会指導医、三重県警察医ほかを兼任するプロフィールを持つ。『一期一会 伊達の警察医日記』も、板野氏の実体験から書き起こした事実に基づくフィクションなのである。

本書は8本の短編と2本の番外編、そして“あとがき”で綴られ、検視と検死を描く作品であるから、短編ではそれぞれ人の死が描かれている。
ただ、“事実に基づくフィクション”には非現実的な演出はない。企業間の開発競争に巻き込まれた悲劇のエンジニアや、実は某国のスパイだったエージェントも登場しない。本書で描かれるのは親や子供、その残された家族、そして見知らぬ人。そうした、ごく日常的に接する人々の病死、事故死、そして自殺だ。

警察医として人の死と向き合う主人公、伊達健夫は、事実と向き合いながら自身の感情を重ね、そして多忙な日常に流されていく。人の人生という時間から見れば、検視、検死に費やす時間はほんの一瞬だ。
だが、人生の最終章である死の前後には深いドラマが生まれる。『一期一会 伊達の警察医日記』を読み進めるうち、センセーショナリズムが求められるテレビドラマでは描かれる機会が少ない、“誰にも起こり得るドラマ”に引き込まれるだろう。

あとがきでは、検視と検死は亡くなった方々の人権を守り、犯罪の検挙や予防に繋がるだけでなく、今を生きる人々の尊厳や権利をも守っていると記されている。
本書はドラマでは時に過剰な演出で描かれる検視と検死の世界を知り、我々の人生との関わりを知るに最適の1冊なのである。

一期一会 伊達の警察医日記(文芸社)
http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-17643-7.jsp