海底から噴出する熱水などに含まれる硫化水素を利用して、二酸化炭素から栄養を作り出す“イオウ細菌”を中心に生態系を形成する、深海の熱水噴出域。
神奈川県藤沢市の新江ノ島水族館では、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と共同研究を行い、深海の熱水噴出域と冷湧水域周辺の生態系を再現した「化学合成生態系水槽」を公開している。
この深海コーナーにて、世界で初めて生体展示を開始したのが「ユメオキヤドカリ属の一種」。通常ヤドカリに見られる巻貝の殻では無く、熱水噴出域に生息する深海生物「サツマハオリムシ」の棲管(せいかん)を宿にしたヤドカリだ。
サツマハオリムシは、蟹の甲羅と同じキチン質の棲管を自分で作り、エラだけを外に出して生活している。
深海を撮影した動画や写真には、海底に細い管が雑草のように生えている場面が映し出される事があるが、それが深海性ハオリムシの棲管。新江ノ島水族館の化学合成生態系水槽でも、その様子が再現されている。
今回展示公開された「ユメオキヤドカリ属の一種」は、JAMSTECの調査船「なつしま/ハイパードルフィン」の調査活動で採集された個体。これまで深海の熱水域に生息するヤドカリの仲間は、台湾から報告された一例のみという、大変貴重な深海生物なのだ。
このユメオキヤドカリ属の一種。当然ながら詳しい生態は解明されていないが、深海生物ファンにとって、まず気になるのが捕食行動についてでは無いだろうか?
磯で暮らすお馴染みのヤドカリは、巻貝の殻を背負って自ら餌を求めて移動する。しかし、海底にガッチリと固定されているハオリムシの棲管に暮らすヤドカリは、どうやって食事をするのだろう?
危険を冒して棲管から出て食事するのか? 移動時には持ち歩けそうな折れた棲管を探すのか? それとも深海の熱水域は、じっと待っているだけで食べ物にありつけるほど、食物が豊富なのだろうか?
考え出すとキリが無いが、それらの疑問は、今後の新江ノ島水族館とJAMSTECの研究で、少しずつ解明されて行くだろう。
深海の甲殻類には、ユノハナガニのようなタフな連中もいるが、深海生物の長期飼育の研究を続けている新江ノ島水族館であっても、ユメオキヤドカリ属の一種がいつまで公開できるかは未知数である。
深海と聞くだけで何だか元気になるファンは、早めに新江ノ島水族館に足を運ぶほうが良さそうだ。
新江ノ島水族館の営業時間などはオフィシャルWebサイトを確認のこと。